2017-01-01から1年間の記事一覧

眼をとじれば

ゆるやかな衣が浮きあがりたたずむ キミは冬 微かなひかりは風にひびき こころ はずみこころ しずみ 頬を撫でたのは誰か皮膚だけが知る珊瑚色のふるえ

てんとうむし

黒いものが手の甲でうごめいている 手を強くふるとテーブルにおちて足をばたつかせひっくり返すと指にしがみつく弾くとおちてもがいている ようやく足が下になりテーブルの端へ移り見えなくなる カップに湯をそそぐとバタバタあばれている掬うとくっつく布巾…

五行歌

静かに坐る見ることを歩くことを奪われても * 床を叩き泣きじゃくるそう立つときはひとり

名もなき花

夜空焦がす鐡花火 生命の水も枯れはてて 息をふさぐ熱気流 母を呼ぶ声子を求む声

うつむく人

降り射す太陽は光やわらげ背をあたため 吹きつける風は冷たさを秘め頬をなで 突き刺さす眼差しは深く息をはき遠くいたわり 静かに照らす月は顔をあげて歩くその日をまもる

てのひら

仕事場近くの居酒屋を、昼は海鮮丼など定食もあるので、ときどき利用する。隣の席の男性が、かなり出来上がっていて、店の奥にいる背広を着た客になにやら絡んでいる。たすき掛けした若い女性の店員が隣の席に近づき、会話は聞こえないが、たしなめている様…

星からの贈り物

かたちあるもの いつか かたちなきもの とわに * 星の瞬きをつつむ 微かな若緑のひびき 目をとじれば 香る ひかり * かがやくもの やみに とざされたとき やみが

E Più Ti Penso

花の潮みちて ひかりあふれ 声つつむ翼は 風に舞い 太古の海原 かがやき響き 青ふかき夜空に うたを待つ

小さな旅

駅から家までは十五分とかからないのでいつもは歩くが、荷物の多いときや雨の日は市内循環バスを利用する。十四ある座席もふくめて定員は二十名ほどの小型バスで、乗客どうしの間合いもちかい。初めて席をゆずられたのがこのバスだ。 冷えこみがつづいたあと…

さくら

はるかちきゅうのおくふかく はるかうちゅうのそらとおく ときをきざんだ はださわり はなのなみだは かぜのなか はなのあとにはわかみどり はなのまえにはふかみどり ゆきのころもは べつあつらえ きんのひかりに たびじたく みあげるひとみに はなこみち …

Both a little scared                     Neither one prepared

白い花びらは 語りえぬことば 棘をたどり ふりつもる 若草色の歌声は 光つよく朝をつげ 鐘の響きにおくられて 碧き谷間にこだまする 扉の鍵は胸のなか だれもふれえぬ鉛色 祭りのあとの空車 白馬に曳かれ闇をゆく 歩みためらう足取りは 地をたしかめるあかし…

私への手紙

息をとめてはいきられぬ ゆっくりしずかにはくことだ 知らないものをはくことだ 抱えていないではくことだ ゆるゆるゆるゆる 緩んででこないか はにはにはにはに 柔らかくなる いつものけしきが新しい いつもけしきは新しい 光りがちがうせいじゃない 影がお…

風に舞い 雨に唄い 若芽の緑は色を深め 陽を浴び 影を与え 紅の羽根となり 乾いた響きを残し 幹に力蓄え 雪にいのち温める 蕾微笑み 重く満ちて ひとつふたつ 綻び 花弁たわわに花祭り 紺碧の空を彩り 手をつなぐ幼な児に はにかみ色を刻む 子どもは桜の贈り…

囁く石

だれも振りむかないとき そっと見まもる空 だれも聞いてくれないとき しずかに耳かたむける道 だれも声をかけないとき ちいさく囁く石 だれも伴に歩くもののいないとき ゆれる草むらを行く蝸牛 だれも支えてくれないとき さりげなく肌をさしだす樹 だれも抱…

『夢十夜 第一夜』(夏目漱石)寄せて

泪の雫は海の鍵盤を爪弾きふるさとの空へ旋律の虹をかける 引く波往く波百年の諧調をおりなす それは欠片の記憶億光年のしらべ 永遠の焔をたたえる密かやなかなしみ 瞼閉じれば涯しなき今 星が纏うは薄衣 闇に抱く鴇色の花影

十一歳

小学校のはじめの四年間、何をしていたのだろう。病欠が半分ちかくあったかもしれない。授業では下を向いておとなしくしているばかり。授業の合間に外で遊ぶこともまったくなかった。ひとり教室でぼんやりしていたのだろうか。 十一歳になった。身長が伸びた…

づんだ餅

づんだ餅は祖母の大好物だ。枝豆をやわらかくなるまで塩ゆでして鞘から出し薄皮もとり、つぶしながら少しずつ摺っていくと豆の青い香りが立ち、塩を加えると翡翠色があざやかに映え、砂糖を入れるとなめらかさが増してさらに艶やかになる。熱々の餅と和える…

赤い風舟

みえぬ墓石に跪く黒髪闇をすすみ 砂にもがきあすの扉にひかりなく知らされぬ鍵のゆくえ あふれ定まらぬ怒りにたたずみ丘から水平線をのぞめば海なでる白い羽に仮の宿りを思い知る 森に消えた面影を月に刻み 追いもとめ灼かれた足は宥められ彼方からの調べに…