赤い風舟

みえぬ墓石に跪く黒髪
闇をすすみ 砂にもがき
あすの扉にひかりなく
知らされぬ鍵のゆくえ 

あふれ定まらぬ怒りにたたずみ
丘から水平線をのぞめば
海なでる白い羽に
仮の宿りを思い知る

森に消えた面影を
月に刻み 追いもとめ
灼かれた足は宥められ
彼方からの調べに耳を澄ます

記憶の籠の片隅に咲く
きのうの宝は人知れぬもの
陽の出とともに友を呼び
空には赤い風の舟

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」に寄せて