織りなす色

 

 悲しみの果て、悲しみと愛しみと美しみとが織り成すその境域のさらにその先に、悲しみはその姿を変えよろこびの種子として新たな命を胚胎しそこにあるのだろう。あるときは共に生まれいずるものの深紅の激流に磨かれ、またあるときは先に逝きしものの住まう漆黒の森に力を蓄える。静かに自在に佇みながら影を区切る月明かりに包まれ、その深みからこちらを見通し、悲しみでしか満たされぬ心の声に耳を澄ます。 

  

<『遠野物語』(九九)柳田國男

凡庸なる非凡さ

 雨風の冷たい日、東北のある街へ赴いた。

 

 予定を終え打ち上げ会場へ向かうが手間取り、着いたのがバス発車時刻の30分前であった。そこから停留所迄は1、2分とのことなので乾杯だけでもと思ったが、不安が、危ないという思いがよぎった。

 

 皆と分かれバス停まで車で送ってもらったが、下調べしていた道が復興工事で車両通行止め、徒歩で行けるはずの道も資材に遮られている。

 

 細い迂回路があることが分かり、最終バスに間に合った。

 

<『こころ』夏目漱石