うつむく人
降り射す太陽は
光やわらげ
背をあたため
吹きつける風は
冷たさを秘め
頬をなで
突き刺さす眼差しは
深く息をはき
遠くいたわり
静かに照らす月は
顔をあげて歩く
その日をまもる
てのひら
仕事場近くの居酒屋を、昼は海鮮丼など定食もあるので、ときどき利用する。隣の席の男性が、かなり出来上がっていて、店の奥にいる背広を着た客になにやら絡んでいる。たすき掛けした若い女性の店員が隣の席に近づき、会話は聞こえないが、たしなめている様子だ。
ほどなく話しかけられた。お医者さんですか。いえ、治療のようなことはやっていますが。世の中、何が足りないと思いますか。すごい質問ですね、思いやりでしょうか。思いやりですか、ことばではなくて。ことばはたいせつですが、そのおおもとの。勉強になりました。
奥の客が帰るとき、先ほどの店員が謝っている。酔っている男性がトイレに立つと、すいませんねえ、酔っ払っているようでと、こんどはこちらを気遣ってくれる。
食べおわり席を立ち会計しようとすると、いつものように、レジから歩み寄ってきて少し腰をかがめ、両手でお金を受け取って精算してくれた。
星からの贈り物
かたちあるもの
いつか
かたちなきもの
とわに
*
星の瞬きをつつむ
微かな若緑のひびき
目をとじれば
香る ひかり
*
かがやくもの
やみに
とざされたとき
やみが
E Più Ti Penso
花の潮みちて
ひかりあふれ
声つつむ翼は
風に舞い
太古の海原
かがやき響き
青ふかき夜空に
うたを待つ
小さな旅
駅から家までは十五分とかからないのでいつもは歩くが、荷物の多いときや雨の日は市内循環バスを利用する。十四ある座席もふくめて定員は二十名ほどの小型バスで、乗客どうしの間合いもちかい。初めて席をゆずられたのがこのバスだ。
冷えこみがつづいたあとの、よく晴れたおだやかな日、乗車し出発を待っていると、母親と、小学校高学年だろうか、息子とおぼしき二人連れが乗りこんできた。
このバスは初めてのようだ。運転手に、一周してまた乗りつづけて、もう一回廻ってもいいか尋ねている。何周してもよいこと、夏場などは空調がきいて涼しいので路線によっては市内見物をする人がよくいることなど、説明をうけている。運転席の裏側に二人がいたので、一番後方の少し高くなっている座席のほうがながめはいいと移動することをすすめている。
そんなやりとりを聞きながら他の乗客も二人の方を見たり、たがいに笑顔で目配せする。
お年寄りが、自分が行きたい場所の最寄り停留所はどこかと聞いている。このバスではなく、同じこの乗場から、二つ後に出る他の路線に、その停留所はあると大きな声で説明し、乗るときその路線の運転手に確認するよう言いそえ、お年寄りも納得したようだ。
運転席に戻ると乗車ドアとは反対側の窓をあけて身を乗りだし何か叫んでいる。制服姿の若い人が近づいてきた。近くに待機中の、二つ後に発車する路線バスの担当運転手だ。さっきのお年寄りのことを、降りるバス停、目的地を伝えている。
定刻にバスは動き出し、車内にさしこむ木漏れ陽のなか親子の会話がはずむ。せまい道から大通りに出たところのいつもの停留所でおりる。写真を撮っておきたくなったが、手間取っているうちに、バスは角を曲がり走り去ってしまった。
Both a little scared Neither one prepared
白い花びらは
語りえぬことば
棘をたどり
ふりつもる
若草色の歌声は
光つよく朝をつげ
鐘の響きにおくられて
碧き谷間にこだまする
扉の鍵は胸のなか
だれもふれえぬ鉛色
祭りのあとの空車
白馬に曳かれ闇をゆく
歩みためらう足取りは
地をたしかめるあかし
うけとめるてのひらに
いのちをきざむ紅い花
カナリア色の風そよぎ
瞳のなかにうつる影
雪の調べは春さそい
とざされた詩がよみがえる