おきなさび飛ばず鳴かざるをちかたの森のふくろふ笑ふらんかも

 声を聞けばよい。

 

 俯瞰することも声高に語ることもいらぬ。上から見下ろさず、無限の時とともに果てない大地を見渡し、静かに微笑みながらとどまり、総てを感じる。無限の彼方、あちらからの声、声なき声に耳を澄ます。砂地に刻まれた小賢しい言葉は波が連れ去る。

 

 沸かされた水は湯となり、湯の氣となりそこに在り、そしていない。陽を享けた樹木の梢は、風に揺れ、それを留めず。遥かなるはからいは、はからうことを知らず、ある。

 

<『遠野物語柳田国男