徘徊する自由

 叫び喚き噛みつき悪魔といわれた「認知症」の女性が、閉じ込められた部屋のドアが開けられ解放され、外に飛び出し何キロも歩き、その日を境に怒りは静まったという。

 

 ふと祖母を思った。亡くなる直前、食事ができなくなり、鼻から管を通され苦しそうだったが、あるとき自力でその管を抜いてしまっていた。その表情は穏やかで美しく、輝いていた。

 それは、揺るぎない尊厳に満ちた人格を灯す、魂の光ではなかったか。

 

<『それでも「人生にイエスという」』ヴィクトール・フランクル