ふるさとの花

 目を細めているのか、眠っているのか。新しき人を見つめる懐かしき眼差し。抱きしめるのは、いつも近しく遠い、今。樹木に遊び、灼けた大地をどこへまでも走る。汗の雫が舞い下り舞い上がり飛び至りて、古く新しき雲に溶け合う。

 

 母国は異国であった。穏やかな風に道行く人々の何かに追われる足音。交わすことばは心に住処を探している。自分のものではない追いつかぬ時間。

 

 仮の宿りを去りゆく、抱き締めるにはあまりに小さき一輪の花ふたつ。打ち震え哭し慟す肩をつつむ手に誓われた永遠のことばは、日々の歩みを忘れることはなかった。聴こえぬ声は夜空に響き、忘れえぬ色たちは星の明りに集い、見上げる者の瞳にその瞬きを返す。

 

 木のサンダルに紛れ込んだ砂が足にさわる。展望台からの見晴しはどこの景色か。異界に迷い込み彷徨い、戦く友の手を引く。目を伏せ重い足取りで歩むと、白き横顔と黒き揺れる髪に不意に手を曳かれる。夕陽の風に衣がなびき、亜麻色の微笑みに撫でられ、後ろ姿は空に溶けた。静けさの中の邪なき拒むことさえ知らぬ幼き唇。

 

 紺碧の空の下、大きく弧を描く白線を日に焼けた素足が駆け抜ける。広がる青空の下の眩しい姿は懐かしいあの初夏の午後。喉を潤す果実の滴は同じ太陽の賜物。走りたかった、光の下を。でも、すべては彼の地のもの。