織りなす色

 

 悲しみの果て、悲しみと愛しみと美しみとが織り成すその境域のさらにその先に、悲しみはその姿を変えよろこびの種子として新たな命を胚胎しそこにあるのだろう。あるときは共に生まれいずるものの深紅の激流に磨かれ、またあるときは先に逝きしものの住まう漆黒の森に力を蓄える。静かに自在に佇みながら影を区切る月明かりに包まれ、その深みからこちらを見通し、悲しみでしか満たされぬ心の声に耳を澄ます。 

  

<『遠野物語』(九九)柳田國男