静かな場所

 

 不肖の弟子にとって、師匠はありがたい。ふと怠りがちな大切なことを繰り返し、その必要なときに身に染むよう指摘してくれる。こちらを憚り誰もが言ってくれないことを直截に伝えてくれる。破門寸前になったり、あるいはこちらから異を唱え、別の道へと袂を分かつことを考えたりしたこともあった。

 最近の稽古のとき、助手として前に呼ばれその少しの合間、肩に手をおきながら皆へ説明をされていた。その手は温かく、静かであった。

 

夏目漱石『こころ』>