こころ ともに

 かなしみに、ひとはひととむすばれ、さむしみに、ひとはこころのふるさとへといざなわれおのれをささぐ。

 

 むかいあい、かわしたつきせぬことばをもくし、たまなるいしをふみしめ、とわのみちをあゆみゆく。ふたりなのかひとりなのか、ひとりでもありまたふたりでもあり。きのうでもなくあすでもなく、いま。

 

 よろこびとともにあるかなしみと、おくられたくるしみにいろどられたさむしみは、すみわたるいつくしきひかりのなかにある。

 

<『こころ』夏目漱石