こころのふるさと

 ラジオから流れくる旋律は、幼き心を甘く染めた。浜辺の波の如く満ちては返す慈しい響き。光立つ音の雫。今も耳にするたび、はるか遠くそして近く、切なく愛おしく懐かしい。

 

 託された音を楽曲へと紡ぎ編みあげ、妙なる音色を湛えた器を世に送り、磨き澄ました技に歌を奏で聴く者へと結ぶ。数多の匠が織りなす美しい調べ。

 

 音は私のことばとともにあり、音のふるさとはまた私のふるさとである。

 

 

<『切支丹の里』遠藤周作