色なき色

 10代最後の夏、礼文島を訪れた。砂地の斜面を攀じ登ると、利尻富士を背景にして、花々に彩られた台地を一望できた。花畠を縫うように一日中歩き廻った。さすがに帰路、海岸沿いの道に下りるころには疲労困憊であった。

 

 夕映えの波打ち際を小石踏みしめ歩いていると、咲きこぼれるような笑顔の、あどけない少女が両手を差し伸べ近づいて来る。掌には色とりどりの貝殻が溢れていた。

 

 疲れも何もかもが一瞬にしてどこか彼方へ消え去っていった。

 

<『ちよう、はたり』志村ふくみ>