待つ 2
母が2度流産したことを父がふと漏らしたことがあった。母の胎内でその命を全うした兄か姉がいたというのは、悦びにも似た感動であった。母がその悲しみ辛さを語ることはなかったが、赤子を授かり胸にする日を切に待ち望んだことだろう。
母の亡くなった後、生まれたばかりの母が祖母に抱かれている写真を初めて見た。母が笑顔で腕の中の赤ん坊のわたしを見つめている写真と重った。明るい陽射しに満たされたふたつの時が今を織りなす。
母に宿る前にわたしはどこにいたのだろう。卵子と精子が結合して生じただけとは思われない。見えなき小さな光だったわたしもまたその懐に抱かれる日を待ち望んでいたのだ。
<『生きがいについて』神谷美恵子>