不可視なことばに託されたもの
母が遺した手記を自費出版するため原稿をパソコンで書き起こし、「・・・昭和23年結婚。二男をもうける。平成26年他界」と略歴をまとめているとき、この66年間、特に二人きりだった晩年は、どういう氣持ちでいたのだろうか幸せだったのだろうかという思いが過ぎった。
遺品の中に内田康夫の推理小説が100冊以上あった。処分しようと思ったが何とはなしに手に取り読んでみたら面白い。すっかり氣に入ってしまい次から次へと止まらなくなった。名探偵のキャラクタ-からか、事件に絡む歴史や風土の興味深さからか、読後には温かささえ感じる余韻もあり、違う世界を旅した広やかさがあった。
かなりの冊数読んだあと、ふと氣がついた。
ささやかながらも豊かな幸福感に包まれていたのだと。
<『苦海浄土』石牟礼道子>